社員の技術や知識の向上のために、研修や各種の講座を社員に受けさせている会社は、多いと思います。会社としては、社員がスキルアップすることによる業績の向上を期待するとともに、社員のモチベーションの向上も意図してこれらの研修や資格取得を奨めていることと思います。
社員の中には、自分のために会社がお金と時間を負担して、受講させてくれるのだから、そこで得た知識や技術を会社に還元しようと考える者もいれば、単に面倒だと考えたり、あるいは必要な知識や資格だけ得られたら、さっさと退職して転職や独立してしまう社員もいるでしょう。しかし、そうなってしまうと、会社が費やした多くの費用と時間は、完全に無駄になってしまいます。このような、自己中心的な社員による損害を避けるためにも、研修等については、きっちりと就業規則に定める必要があります。ただし、規定の仕方には、注意する必要があります。
研修後の退職を避けるため、以下のような規定を置いている会社もあるのではないでしょうか。
「会社が費用を負担した研修を受講した者は、研修終了後1年間は自己の都合による退職を認めない」
上記の規定は、憲法に定める職業選択の自由及び労働基準法の退職の自由を奪うことになり、認められません。つまり、上記のような規定では、何の効力も生じないことになります。
上記のような規定以外に、以下のような規定も無効となります。
「会社が費用を負担した研修を受講した者が、研修終了後1年以内に退職する場合は、その研修に要した費用の全額を返還しなければならない」
この規定は 1年以内に退職したら、違約金として研修費用を払えといっているのと同じになりますので、労働基準法第16条に抵触し、無効となります。
そこで、就業規則には以下のように規定します。
就業規則の規程例
第○条(研修の費用)
研修の費用は、会社が社員に貸与するものとする。社員が研修後1年以内に退職する場合は、研修に要した費用を会社に返済しなければならない。ただし、研修後1年を経過した場合は、返済を免除する。
上記のように規定すれば、社員に研修費用の返済を求めても、違約金ではなく貸したお金を返してもらうだけですので、労働基準法には抵触しません。また、返済さえすれば、自由に退職できますので、職業選択の自由や退職の自由を奪うことにはなりません。
ただし、上記の規定は、すべての研修に適用できるわけではありません。まず、研修の受講が、本人の自由意志に委ねられている必要がります。また、研修の内容が、受講する社員の業務内容と極めて関連性が強い場合は、その研修自体、社員が業務を遂行するために会社として当然に行うべきものであると解されますので、社員から費用の返済を求めることはできません。
しかし、上記のような規定を置くことで、少なくとも社員の足止め効果を期待することは出来るでしょう。
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